この記事の解説事項
●「MV用イラスト」とは?
●イラストも描いている動画師目線から見た、「MV用イラストの作り方」や「データの提出の仕方」の説明、おススメ
●動画編集ソフト内でできる表現について紹介
無印かげひと(@kage86kagen)です!
今回はMV用イラストについてのお話になります。
イラストというのは、雑誌の表紙、挿絵、広告、CDジャケットなど使用先がたくさんありますが、その中でもMV(ミュージックビデオ)内で使用するための「MV用イラスト」の制作率は、およそ10年ほど前から急上昇していると思います。
特に、ボーカロイド楽曲、通称「ボカロ系」のMVでは、イラストやアニメーションを活用しているMVがほとんどです。ただ、近年はボカロだけに限らず、歌ってみた界隈やバンド、ひいてはメジャーアーティスト等も実写映像ではなく、時にはイラスト等を活用したMVを採用する事例が多いです。
管理人もイラストレーターとして活動してきましたが、1年前からは動画クリエイターとしても活動を始め、今では自分が描いたイラストを使ってMVを作ったり、他のイラストレーターや絵師が描いたイラストをお借りして編集したりすることも多くなりました。
そのため、ここ1年間はほぼほぼMVに関するお仕事に入り浸っていたため、MV制作に関わる”あれこれ”も学ぶことができたと思います。
それと同時に、他の方が描いたイラストを利用してMVを制作する際に、「あー、ここはこうしちゃったか…」「依頼者はMV演出に関して『○○して欲しい!』っていう要望をしているけど、このイラストデータだと編集が超難しいな…」など、”ここをこうしてくれたら…”という思いも体験してきました。
ということで今回は、MVイラストを描かれる方必見、「動画師からのお願い!MV用イラストの作り方とデータの提出について」についてをお話したいと思います。
- MVイラストを作ってる&作りたいけど、気を付けるべき事はあるの?
- イラストデータを提出する際の注意事項はある?
- 動画編集の時にできる加工やエフェクトは何があるの?
などなど、今回はMVを作る側の立場としてMVイラストを作られる方にお伝えしたいしたい事などをまとめてみたいと思います。また、MVイラストを依頼しようと考えている依頼者にとっても、調整を行う際の参考になれば幸いです。
それではいってみましょう!
もくじ
「MV用イラスト」とは
まずはMV用イラストについて軽く説明したいと思います。
「MV用イラスト」とは、文字通りMV(ミュージック)内に使用するイラストの事を指します。
これは年代によって認識が違いますが、MV内にイラストを使用することは最近では”よくあること”であり、メジャーデビューしているアーティストでも、時には実写ではなくイラストやアニメーションを活用したMVを取り入れる事が多くなりました。
また、MV用イラストはプロアマ趣味問わず、色んな方が描いています。
(上記は「SixTONES first album「1ST」「うやむや」」のMV。 静止画イラストを取り入れたMVになります。イラストはダイスケリチャードさん、動画はえむめろさんです。)
ところで、意外と不明確なのが「MVイラストを制作する時の前後の流れ」だと思いますが、おそらく下記が主流かと思われます。
- 楽曲のMVに”イラスト”を使用したい依頼者が、イラストレーター(絵師)にイラストを依頼する
- 出来上がったイラストをMV編集者に渡す(動画制作もできる絵師だったら、そのまま動画制作も依頼する)
管理人の場合はもっぱらこの流れがほとんどですが、MV依頼者が考えているプロジェクトの規模がでかければでかいほど、ディレクションの時点でイラスト制作者と動画編集者と平行して調整していき、よりクオリティ高いMVを目指す個人や企業の方が多いです。
その場合は、まずは「絵コンテ」制作から入って、これを制作メンバー全員と共有する、そこから各制作者と調整…といった流れになることが多いと思われます。
ちなみに、「ピアプロ」などといったサイトにあらかじめ自分のイラストを投稿し、それをMV依頼者が了承を得てお借りする→それをMV編集者に渡す…といった流れでイラストが使用される事があります。
この場合のメリットは、無料でイラストを貸し出している方が多く、それにより予算が浮く、調整の負担が軽くなることがメリットですね。
デメリットを上げると、イラストの内容と楽曲の曲調や歌詞の内容が嚙み合わず、傍からみると「何を伝えたかったの?」と困惑してしまう事があります。自分の楽曲と既存のイラストがマッチさせるのはなかなか難しいので、やはり一から制作依頼してもらった方が世界観を大きく崩すことが無いかと思われます。
他のデメリットとしは、そのイラストを既に誰かが使用している可能性があり、「あ、このイラストの楽曲かぁ。前も聞いたから違う曲を探そっと」と視聴者が思い、そもそも楽曲にすらクリックしてもらえない恐れもあります。
MVイラストの作り方
さて、ここからは本題である「動画クリエイター(動画師)からのお願い!MVイラストの作り方や提出の仕方」についてを紹介したいと思います。
「MVイラストの作り方?普通にイラストを描くときと、さほど変わらないんじゃないの?」と思うかもしれませんが、確かに描く事自体は変わりありません。
ですが、イラストをMVに使用するならではの「こうして描いておいた方がいいよ!」「提出するならできればこうして欲しいな…」といった、動画師からの”要望”も込めているので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
※注意点!
ここからはあくまでも個人的主観になりますので、必ずしもこうしなければいけない!という内容ではありません。ただ、記事を制作するにあたってネット上での他の動画師の意見やブログ記事等を参考にしつつ、自分の経験とすり合わせながら登記しているので、少しは参考になるかと思われます。
また、イラストを依頼する人(依頼者)の希望によっては、かならずしもこうする必要はありませんので、本当にあくまで参考として聞いていただければ嬉しいです。
- サイズ
- レイヤーの構成
- データ形式
- 画面外も意識
- 差分ありイラストを提出する場合
- アニメーションを提出する時
①サイズ

イラストを制作する時のキャンパスサイズですが、可能であれば縦横「1920×1080px」以上、TikTok用などの縦長動画に使用する予定であれば、横縦「1080×1920px」以上に制作して欲しいです。
これはなぜかと言うと、動画は主に「1920×1080px(フルHDとも言う)」のサイズで投稿されるためです(アスペクト比は16:9です)。
一回り小さいサイズだと「1280×720(HD)」になりますが、今の時代こちらのサイズで依頼される方はあまりいらっしゃいません。
使用用途によって適切なサイズも異なってきますが、YouTubeやニコニコに投稿する時には「1920×1080px」で動画を制作される方が多いので、動画で使用するイラストのサイズは、基本はこれだと思って頂ければと思います。
こういった観点から、イラストのサイズは最低でも「1920×1080px」の大きさで描いていただきたいです。(”解像度”については動画制作において関係ないため、72dpi、300dpiでもどの解像度で制作してもOKです。)
ただし、1920×1080pxはあくまでも最低ライン。もし、MV全編通してイラストを全体表示のままでいく方針であればそれでもOKですが、最近のMVはイラストへのズームアップ&アウトを頻繁に行う演出が非常に多いです。
MV内で画面を拡大縮小する場合、イラストのサイズが小さいと、どうしてもイラストの粗さが目立ってしまいます。(キャラの顔へのアップ、背景の建物にズームなど…)
そのため、理想としてはこれの2倍である「3840×2160px」ぐらいか、余裕があればそれ以上の大きさで描いていただけると、綺麗な画質のままでMVを出力することができます。
●こんな場合ならOK
先ほど、縦横(9:16)を指定した場合を言いましたが、全身キャラや、SD(スーパーデフォルメ)を描き、これをMVに取り入れる場合はこの限りではありません。
そういった場合は、縦横比はどれくらいになってもOKです。ただし、可能であれば1920×1080pxの数値を超える大きさで描いていただけると嬉しいです。

②レイヤーの構成

続いてレイヤーの構成についてですが、こちらはMV依頼者によって大きく異なります。
例えば、イラストを見たまんま使用するのであれば、レイヤーを全て統合したのちにjpgやpngデータで提出頂いても構いません。
でも、「このパーツを動かして欲しい!」「背景の大きさはそのままにして、キャラクターを縦横無尽に動かして欲しい!」という要望があった場合、全てのイラストを統合されて提出されると、そういった演出が出来なくなります。
分かりやすい例を用意しますと、下記画像のように「風鈴のみ動かして欲しい!」という注文が依頼者から動画師に来た場合、イラストが全て統合されたデータを提出されると、その演出を行う事ができません。
そのため、依頼者と調整される絵師さんは、可能であれば「1枚絵のみご希望ですか?それともレイヤー分けしたもので提出した方が良いですか?」といった感じで、依頼者に声を掛けて頂けると嬉しいです。

ただ、中には絵師と動画師と並行で調整してくれる親切な依頼者もおり、「現在、こんな感じ(ラフ案を提出)の構図なのですが、イラストのレイヤーはどんな風に分けた方が良いですか?」と、こちらに指示を仰いでくれる方もいます。そういった場合だと、MVの演出の幅がかなり広がります。
●まとめ
レイヤーはできればパーツごと(キャラ、小物、背景etc)などに分けて描写してもらえると、MVの表現の幅がグッと広がる。(ただし、依頼者の指示による)
③データ形式
次は、イラストを提出する時のデータ形式についての要望です。
提出データは、可能であればPSDかPNGが理想的です。なぜかというと、先ほどの「レイヤー分け」の話に加えて、下記の理由があるからです。
- PNG(透過形式)でレイヤー事に出力してくれると、パーツごとに透過処理がされてるのでMV演出の幅がかなり広がる
- PSD(Photoshop形式)データはPNGの上位互換。PSDデータは「レイヤー構成」が保存されたまま動画編集ソフトに取り込む事ができるので、動画編集が超ラク。
(取り込めるかどうかは動画編集ソフトによります)

個人的には、「PSD形式(Adobe Photoshop形式のデータ)」で提出して頂くのが嬉しいです。管理人の場合、動画編集ソフトはPhotoshopと同じ会社が開発した「Adobe After Effects」を利用しているので、PSDデータをAEに取り込む際、「レイヤーの形式を保持したまま動画編集に組み込む」ことができ、その結果作業が非常に楽になります。
そうなると、予定納品日よりも早く納品できる可能性がでてきます。
無料動画編集ソフト「AviUtl」も、専用のプラグインを導入すればPSDデータを取り込むことが可能です。
もし、依頼者からレイヤー分けの指示がなかった、MV全編に渡って1枚絵全体しか表示しないらしい、透過部分が無い場合であれば、JPG形式でもOKです。ただし、JPG形式だと多少なりとも画質が劣化するため、そうであってもPNG形式で提出されることを推奨します。
補足ですが、下記画像のように「白塗り箇所の部分の後ろに歌詞文字を表示して欲しい!」という要望がたまに来ます。

この場合、「JPG形式でデータを提出してしまっている」、「PNGだけど「白部分」も白く着色されいるため、透過になっていない」ということになり、白部分に文字を入れる表現が難しいです。
…と思いきや、限りなく白or限りなく黒だった場合、動画編集ソフト内で調整をし、白部分を透過化することができる”場合”があります。

こちらについては、後述する「動画編集内でできる演出」について説明したいと思います。
●まとめ
イラストのデータ形式は、「PNG形式(透過形式)」か「PSD形式(Photoshop形式)」は望ましい。
ただし、こちらも依頼者によるので、あくまでも動画師側からの要望程度。
④画面外も意識
これはかなりの頻度でありがちなのでですが、「キャラクターを頭から上までスクロールして欲しい」という要望が依頼者側からあるものの、「イラストが画面に沿って切れている」ため、全体表示や動かすのが難しいという場合があります。
そのため、絵師さん側でそういった演出をあらかじめ聞いているのであれば、画面外の部分も塗って頂けると嬉しいです。

また、「人物イラストの後ろ側が塗られていない」場合も結構あります。レイヤーごとに分けて提出される場合、こういった塗り残しも見落としがちですので、こちらも気を付けて頂ければ嬉しいです。

●まとめ
イラストのスクロール演出にも繋がるので、画面外にはみ出している部分も制作してもらえると助かる。(ただし、これも依頼者側からの指示による)
⑤差分ありイラストを提出する場合
「笑った顔」、「怒った顔」、「手に何か持たせる」など、差分イラストを依頼された場合のデータ出力についてですが、こちらは「その差分部分のみを個別に出力」、あるいは「差部分も含めてイラスト全体を出力」など、どちらの方法でも問題ありません。(これはPNGデータの場合です。PSDはレイヤー名を分かりやすくしてくれさえすれば◎)
ただし、PNGで書き出しする時には「縦横のサイズ」を統一してくれると、動画編集がかなりやりやすいです。たまに、差分ごとにキャンパスの大きさが数px違ったデータを頂くこともありますが、こちらで拡大縮小して合わせようにもどうしても違和感が残る場合があります。

●まとめ
差分イラストの出力の仕方は、「その差分部分のみを個別に出力する」、あるいは「差部分も含めてイラスト全体を出力」など、どちらの方法でも問題なし。
ただし、「差部分も含めてイラスト全体を出力」する場合は、キャンパスサイズは全てきっちり統一して提出してもらえると嬉しいです。
⑥アニメーションを提出する時
フレームを組んでイラストを描いた「アニメーション」を提出する時についての要望ですが、「背景あり」のアニメーションを提出する際には「MP4形式(これが最も主流の動画形式)」でもOKです。
もし、背景透過で人物のみなどのアニメーションを提出される場合は、「AVIデータ(背景透過データを保持した動画形式)」もしくは「MOVデータ(AVIと似ているけどApple製品と相性が良いデータ)」で出力して提出をお願いします。
透過データを保持したまま出力すると、MP4よりもバイト数が数倍になり、慣れていない方だと「なんじゃこりゃ!」とびっくりしがちですが、得てしてそういうものなのであまり気にせず提出してください。
(強いて言えば、データ通信量に制限がある人でデータを送信する時は、気になると思いますが…)
●まとめ
・背景ありのアニメーションなら、「MP4」でもOK
・透過部分がある場合は、「AVI」か「MOV」で提出
MVイラストの作成と提出について、なんとなく掴んでいただけたでしょうか?
一応、どんなイラストであってもMV内である程度編集することが可能ですが、先ほどの内容を遵守してくれると、より幅広い表現を演出することができたり、動画編集の作業時間を大幅に短縮してくれたりします。
動画編集内でできる演出

たまに、依頼者から「ノイズは動画編集内でかけることができる?」、「動画編集ソフトは”色変更”が可能ですか?」などといった事について聞かれることがあります。
おそらく、イラストを依頼する時の参考として尋ねているのだと思いますが、イラストレーターや絵師の方も動画編集ソフトでどんなことができるのか、少し気になりませんか?
端的に言うと、イラスト制作以外ならなんでもできます。もう少し詳しく言うと、主線や色塗りといった「ザ・お絵かき」の作業はできませんが、「ノイズ」や「魚眼レンズ」、「星空の制作」といったエフェクトや効果は、動画編集ソフトでも制作することが可能です。
ここからは、そういった動画編集内でできる「表現・エフェクト」についてをかなりざっくりに箇条書きでご紹介します。
イラスト制作者は、「あ、動画編集ソフトはこういったこともできるんだ!」と参考程度に見て頂ければと思います。
- イラストの色変更、軽度、コントラストなど「色に関する」事が変更できる(セピア調、モノクロなどにも変えることができる)
- ノイズを入れられる
- ガウス、ブラーを入れてぼやかすことができる
- 簡単なドット柄や斜線などといった「トーン」を作る事が出来る
- 図形を作ることができる(ハート柄や星柄など。illustratorのようにパスを設定できるので、より複雑なものも制作可能)
- 変形ができる(魚眼レンズ、ワープなど)
- 白抜き、黒抜きができる(これにより、「背景真っ白+人物キャラ」で提出された場合、真っ白部分を”透過”することが可能)
- 当然ながら、文字も入れられる

これらエフェクトの中には、より細かい説明をした記事を用意していますので、下記をご覧いただければと思います。
イラスト1枚絵MVや2DアニメーションMVに使えそうな動画エフェクト&機能集(pixivFANBOXに飛びます)
むしろ、絵師さんは深く考えずに「ドット柄」や「色収差」等の加工を入れてくれると、動画編集をする時にそれを参考にし、そのデザインを踏襲したMV構成を考える事が出来るので、イラストとマッチした動画編集を行うことができます。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回は、「動画師からのお願い!MV用イラストの作り方とデータの提出について」をご紹介しました。
管理人はイラストも動画編集も行っているため、今回はMVイラストについてより込み入った説明ができたかと思います。
MVイラストは、基本的にどんなものでもOKです。MVの構成は提出頂いたイラストに合わせてこちらで考えるのですが、もし可能であれば下記を配慮しながら制作してもらえると、動画師側としては大変助かります。
- キャンパスサイズ:動画サイズ以上の大きさ(1920×1080pxを超える大きさ)
- レイヤーの構成:可能であれば、パーツごとに(人物、小物、背景など)分けてもらえると、MVの演出の幅が広がる(これは依頼者と要相談)
- データ形式:PNGデータ(透過形式)、もしくはPSDデータ(Photoshop形式)、無理であればJPGデータでも可(これも依頼者と要相談)
- イラストは画面外の部分も意識して塗って欲しい(人物のバストアップイラストであれば、バスト下部分も少し描いておくetc…)
- 差分ありイラストを提出する場合は、「①その差分部分を分けて提出」、「②差分部分を含めたイラスト全体を出力し、複数枚提出」など、やりやすい方法でOK
- アニメーションを提出する時は、背景透過ありなら「AVI」か「MOV」、背景透過無しであれば「AVI,MOV,MP4」どれでもOK
また、動画編集ソフトでできることについてですが、基本的に「手癖の技術が必要ないもの(線画、塗り)」以外の「効果、エフェクト、ノイズ、簡単な柄、簡単な背景作り」等であれば、全て動画編集内で表現することができます(ただし、動画編集ソフトによって出来る事の幅が異なります)
ただ、これらについてはイラスト内で描写して頂いても全然OKです。そのイラストに描いている表現を踏襲したMV展開を考えますので、イラストを描くイラストレーターや絵師の方はあまり深く考えずに制作してもらえればと思います。
昨今は、イラストやアニメーションを取り入れたMV作品がかなり多くなってきています。今まさにイラストを描いている方、これからMVイラスト依頼も募っていきたい方にとって、これらの記事が参考になれば嬉しいです。
詳しくは、こちらのポートフォリオサイトかTwitterのDMからお問い合わせください!
最後までご覧いただきありがとうございました!
それでは!